大企業とスタートアップ、そして葬儀社が生きる道

jFuneral Podcast 【ニュースレター】アライアンス分析 第4話

前回、「普通の中小規模の葬儀社が外部への「知の探索」と「知の深化」の話をしました。今日はその続きです。実は今、日本の新規事業の世界では、大企業とスタートアップのアライアンスがものすごく期待されています。経済団体主催のマッチングイベントもたくさん開かれていますし、私自身、大企業の新規事業担当者向けに講演をすることもあります。

この「大企業×スタートアップ」の構造は、実は葬儀業界にもそのまま当てはめて考えることができます。ただし、そのまま当てはめると危険な部分もある。今日はそこを、Good、Bad、Ugly、三つの視点で整理していきます。

【Step 1】 自社の強みを見つけ、言語化する
【Step 2】 アライアンス戦略を立てる(「Why」の明確化)
【Step 3】 候補先の探索とミーティング(シーズの獲得)
【Step 4】 条件交渉・合意と事業構築(本音の対話と仕組み化)
【Step 5】 収益化の実現とタイムスパンの管理(規模の最適化)

おことわり:今回ポッドキャストと言いながら台本だけです。
【ニュースレター 】として配信いたしました。
その代わりにマンガを一番したからダウンロード出来るようにしてあります。


1:なぜ今、大企業とスタートアップのアライアンスなのか

大企業には資金も人材も販売網もあります。でも社内に、本当に新しいアイデアを生み出せる人が少ない。多くの社員は入社から5年、10年、既存事業だけを担当します。先輩も上司も、みんな既存事業出身。そんな環境で「新しいビジネスを考えろ」と言われても、出てくるのは自社サービスの延長線上のものばかりです。だからこそ、外部からアイデアを取り込む。スタートアップに投資して、0から1を生み出す力を借りる。これが今の潮流です。

Good 大企業は自前主義の限界を認め始めています。これは健全な変化です。自社だけで新規事業を作ろうとして何年も社内会議を重ねるより、すでに0→1を達成した会社と組む方が圧倒的に早い。

Bad 「スタートアップと組めば新規事業が生まれる」という期待だけが先行しがちです。マッチングイベントに出て名刺を交換して終わり、というケースを私はいくつも見てきました。アライアンスは手段であって、目的ではありません。

Ugly ここが現場のリアルです。葬儀業界の経営者の多くは60代、70代。スタートアップの「今日作って明日リリース」というスピード感そのものが、感覚として理解できない人が少なくありません。相手が何をしているのか分からないまま、雰囲気で「提携しましょう」と言ってしまう。これが一番危険です。


2:葬儀業界特有の壁 ―― 同業アライアンスが機能しない理由

大企業同士のアライアンスは一般的な戦略ですが、葬儀社の場合、大手同士が組むというのはまずあり得ません。理由は単純で、業務がまったく同じだからです。共食いになる。しかも、遺族というお客様のパイは決まっていて、増えることはありません。だから同業で手を組んでも、新しいものは生まれない。外に向けて提携するしかないんです。

Good この構造に気づいている大手葬儀社は、実際に外部との提携を進めています。アルファクラブ武蔵野とそうそう、メモリードとそうそうの提携などがその例です。同業で潰し合うのではなく、異業種・異分野に目を向ける発想は正しい方向です。

Bad 問題は、これができるのが体力のある大手だけだという点です。前回もお話ししましたが、中小・零細の葬儀社には、そもそも「外部と組む」という発想自体がまだ根付いていません。

Ugly さらに言うと、地域密着の商習慣が壁になります。地方の葬儀社は、地元の寺院や互助会、地域の名士との長年の関係の中で仕事をしています。新しい外部パートナーを連れてくることは、その既存の人間関係のバランスを崩すリスクとして受け取られることがある。合理性だけでは動かない世界です。


3:0→1と1→N ―― 起業家と経営者の役割分担

スタートアップは0から1を生み出すのが得意です。リーン・スタートアップ、つまり最小限の製品を出して、失敗したらすぐ次を出す。この試行錯誤のスピードが強みです。一方、大企業は失敗が許されない風土なので、この動き方が苦手。その代わり、1を10に、100にというスケールアップは得意です。起業家は0→1、経営者は1→Nを担う。ここの役割分担がアライアンスの本質です。

Good この整理は非常にシンプルで使いやすい。SlackやFacebook、PayPal、テスラも、ゼロから何かを発明したというより、既にあった概念を「初めて広く形にした」ことに価値がありました。0→1の価値を正しく評価する視点は、葬儀業界にも持ち込む価値があります。

Bad 危険なのは、「0→1はスタートアップに任せればいい、うちは1→Nだけやればいい」と、大企業側が思考停止してしまうことです。元ネタでも触れられていますが、任せきりにすると、大企業側の試行錯誤の力自体が衰えていきます。

Ugly 葬儀業界では、この分業がそもそも成立しにくい現実があります。イレギュラー対応の多さです。宗派、地域の風習、遺族の事情、一件一件が違う。標準化して1→Nでスケールさせようとしても、現場で必ず例外が発生する。この「イレギュラーの多さ」こそが、葬儀社が新しいツールやパートナーを敬遠する本当の理由だと、私は見ています。


4:CVCという武器と、それが使えない中小零細葬儀社の現実

大企業はCVC、コーポレートベンチャーキャピタルを使って、有望なスタートアップに投資し、0→1のシーズを集めます。集めたシーズを1→Nの経営力で育てる。これが米国のVCエコシステムに近い考え方です。ただし前回にお伝えしましたが、中小・零細の葬儀屋さんにはこのCVCという概念、そのまま当てはまりません。これは大企業向けです。

Good CVCという「型」を知っておくこと自体には意味があります。大手が何をしようとしているかを理解すれば、自社がその流れにどう乗るか、あるいは乗らないかを判断できます。

Bad 中小・零細葬儀社の経営者が「うちもCVCを」と考えるのは、体力的に非現実的です。ここを勘違いすると、身の丈に合わない投資話に手を出してしまうリスクがあります。

Ugly そもそも「CVC」という言葉自体、地方の葬儀社の社長には聞いたことすらないケースがほとんどです。ここに大きなギャップがある。大企業や業界大手が語る「アライアンス戦略」と、日々イレギュラー対応に追われる現場の葬儀社の間には、使っている言語からして断絶がある。私が橋渡し役を必要だと感じているのは、まさにこの部分です。


5:実例から学ぶ ―― アルファクラブ武蔵野×そうそう、メモリード×そうそう

大手同士ではなく、大手と、アイデアを持つ小規模な会社との提携。これが実際に業界で動いています。アルファクラブ武蔵野がそうそうと提携し、メモリードもそうそうと提携している。これは「大きい葬儀社が、より大きいところと組む」のではなく、「大きい葬儀社が外に向けて何ができるか」を体現した動きです。

Good 実例が存在するということ自体が重要です。理論だけでなく、供養産業の中で実際に0→1と1→Nの分業が機能し始めている証拠です。

Bad ただし、これらはあくまで体力のある大手の事例です。「うちもできる」と中小葬儀社がそのまま真似できるモデルではありません。規模の違いを無視した横展開は失敗します。

Ugly 文化の違いを甘く見てはいけません。元ネタにもありましたが、「とにかく一緒にやりましょう」というだけでは絶対にうまくいかない。葬儀社の意思決定は稟議と関係性がものを言う世界で、スタートアップのスピード感とは根本的に文化が違います。目的を明確にしないまま提携すると、数年後には「あの提携は結局何だったのか」という話になります。私はそういうケースも見てきました。


6:供養産業における現実的な一歩

では、中小・零細の葬儀社は何をすればいいのか。CVCも、大型買収も現実的ではありません。ですが、「アイデアを持った小さい会社と提携する、あるいは小さく協業する」という発想は、規模を問わず使えます。0→1の部分を、自社の外にいる誰か、小さなITベンダーや個人事業者、地域の異業種プレイヤーに担ってもらう。自社は1→N、つまり地域での実行力、遺族との信頼関係というリソースを提供する。この役割分担なら、中小の供養産業の会社でも組める余地があります。

Good 規模が小さくても「役割分担」という発想さえ持てれば、対等な形でのパートナーシップは可能です。大企業だけの特権ではありません。

Bad とはいえ、パートナーを見極める目利き力がなければ、逆に食い物にされるリスクもあります。相手が本当に0→1を持っているのか、単なる営業トークなのかを見抜く必要があります。

Ugly 一番の障害は、経営者自身の意識です。イレギュラー対応にずっと追われてきた葬儀社は、「レギュラー業務を仕組み化・AI化して、そこで生まれた余力を新しいことに使う」という発想自体を持っていないことが多い。イレギュラーを細分化すれば、どこで問題が起きているかは見える化できます。そこだけ人間が対応すればいい。この整理ができていないと、そもそもアライアンスを検討する余力すら生まれません。


クロージング・次回予告

今日は、大企業とスタートアップのアライアンスの構造を、葬儀業界に当てはめて見てきました。まとめると、0→1はアイデアを持つ小さいプレイヤーに任せ、1→Nは実行力のあるほうが担う。この役割分担さえ理解すれば、大手でなくても組み方は見えてきます。ただし、CVCのような型をそのまま真似ても意味はなく、現場のイレギュラー対応をどう仕組み化するかが、その前提として必要になる。

次回は、この「イレギュラーの見える化」をもう少し掘り下げて、葬儀社が業務のどこをAIに任せられるのか、具体的な整理の仕方についてお話しします。それでは、また次回。jFuneral Podcastでした。


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