アライアンス思考、外部への「知の探索」

知の探索と知の深化 ── 葬儀業界への応用編

Podcast Season 7 Episode 281
今日は2026年7月28日です。

280は社長の独り言として提供いたしましたが、みなさんお聞きいただけたでしょうか?
内容は既存終活ビジネスの敗北についてです。
今回はその前の279の続きです。

こんにちは、日本でたった一人の葬儀・葬送ビジネス及びマーケティングポッドキャスターの
有限会社ワイ・イー・ワイの和田です
死に方改革研究者及び旅のデザイナー、あの世への旅です。

導入:なぜこの「探索」と「深化」理論を葬儀業界に持ち込むのか

今回はアライアンス戦略の理論的土台として「知の探索」と「知の深化」、そして「イノベーションのジレンマ」を扱います。さらに「起業家の役割」を呈したヨーゼフ・シュンペーターのニューコンビネーション、そしてジェームズ・マーチが1991年に提示した両利きの経営、最後にクレイトン・クリステンセンのイノベーションのジレンマ。これらは本来、大企業とスタートアップの関係を説明する理論です。

結論から言います。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)設立という処方箋は、小さい葬儀社には不可能な話です。資金力も人材も前提が違いすぎる。しかし「知の探索」と「知の深化」という思考の軸そのものは、規模に関係なく使えます。
今日はそこを葬儀業界の現実に落とし込みます。


第一部:知の深化の前提が崩れている

深化とは何か、そして何ではないか

漢字を見るとわかりますが、深く掘り下げる意味です。変化の進化ではありません。

祭壇施行、式進行、遺族対応、地域の病院や寺院とのネットワーク。これは長年の経験で磨かれた「深化」の産物であり、葬儀社の存在価値そのものです。ここを軽視してDXだけに走る会社は本質を見失います。

ここでGood「いいこと」、Bad「悪いこと」、そしてUgly「ヤバいこと」にわけて見ていきたいと思います。

Good:現場対応力だけで長年生き残ってきた会社は確かにある。それ自体は否定しません。

Bad:経営数字を見ずに「今月なんとなく忙しかったから大丈夫」で判断している会社は、深化しているのではなく、ただ同じことを繰り返しているだけです。深化と停滞は違います。

Ugly:ここではっきり言います。パソコンすら置いていない葬儀社が実在します。これは私の知人が葬儀のスタッフとして派遣されて、派遣先で実際に遭遇し、慌てて私に連絡してきた話です。一社の特殊事情ではなく、他のAI教室講師からも同様の証言が複数ありました。トップがスマホだけで経理も決算も把握しているつもりになっているなら、それは経営ではなく感覚です。

「紙の報告書」という壁

パソコンがない会社では、経理も現場報告も紙と人の申告だけに依存しています。冗談交じりに言えば、これはもうPaperの紙ではなく、Godの「神さまの報告書」に近い。
誰かが途中で数字を書き換えていても、気づく手段がありません。

Good:Paper、紙運用でも、長年の勘と経験で大きな破綻なく回してきた会社はある。

Bad:しかし、この状態ではAIリスキリングは「企業導入」というレベルで成立しません。個人がスマホでAIに興味を持つことと、組織として業務プロセスにAIを組み込むことは別物です。

Ugly:これは単なるITリテラシーの話ではなく、内部統制が事実上存在しないということです。悪意がなくても集計ミスに気づけず、悪意があっても改ざんに気づく仕組みが最初から存在しない。パソコンを敢えて買わない経営者が多い背景には、変化への抵抗だけでなく、見える化されること自体への無意識に生理的・心理的の嫌悪感、きひ(忌避)があるのかもしれません。

検証能力なき外注化 ── freee丸投げの実態

一方で、スマホで領収書を撮影し、freeeなどのクラウド会計サービスに丸投げしている会社も少なくありません。とくに個人事業主に多いのでは?何人も知っています。

Good:外注化・クラウド化自体は正しい経営判断です。経理を自社で抱え込まず専門サービスに任せるのは本来合理的です。

Bad:丸投げした結果が正しいかどうかをチェックする能力がない経営者がほとんどです。数字が出てきたら、疑うことなくそのまま受け入れる。

Ugly:ここが一番の問題です。「検証できないから、それでいいだろう」という思考停止こそが、業界全体のリテラシーが上がらない根本原因ではないでしょうか。パソコンがない会社は物理的にITから切り離されている。freeeに丸投げしている会社は、ツールは使っているのに検証する頭を使っていない。ツールの有無ではなく、「検証しようとする姿勢」そのものが欠けている点で、両者は同根の問題です。

この二つの実例が示すこと:イレギュラー対応が多いから新しいツールを使いたがらない、と葬儀屋さんはよく言います。しかし実態はおそらく逆です。管理していないから、全部イレギュラーに見えているだけです。何が本当にイレギュラーで、何がただの管理不足かを区別する土台(経理の数字を自分で見る、検証する)がそもそもない。


第二部:知の探索とは何か

DXやAIリスキリング、電子墓誌、樹木葬付帯サービスといった新しい収益源・顧客接点が「探索」です。SNS発信やブログ、YouTubeも同様です。これがなければ業界は縮小するだけの産業になります。

Good:新しい顧客接点や収益源を模索する動きは、業界縮小に対する唯一の打ち手です。

Bad:探索は「当たりくじだけを買う宝くじ」(ジェームス・マーチ)の通り、成果が不確実です。投資対効果が見えないものに手を出したがらないのは経営者として自然な反応でもあります。

Ugly:探索に見せかけた「流行り物への飛びつき」が多い。AIツールを導入しても、レギュラー業務を仕分けせずに闇雲に触るだけでは、探索でも深化でもなく、ただのコストです。イレギュラーを細分化して「どこで人間が処理すべきか」を可視化する作業自体が、実は地味な「深化」であり、それをやらずに探索(AI導入)だけ先行させると失敗します。


第三部:処方箋 ── どこから始めるか

前提が崩れている会社に、いきなり探索(AI導入)を勧めても機能しません。順番があります。
私が一番それを味わいました。

ステップ1:検証する姿勢を取り戻す(深化の土台の再建)

AIリスキリングの入り口は「AIの使い方」ではなく「出てきた答えを疑う練習」であるべきです。経理の数字をfreeeに丸投げして終わりにするのではなく、月次で「なぜこの数字になったのか」を自分の言葉で説明できるようにする。これは技術研修ではなく、思考習慣の矯正です。AI導入後も、AIが出す答えを鵜呑みにする土壌が経理の段階で既にできているなら、同じ構造(理解できないから無視する、または疑わず信じる)が繰り返されるだけだからです。

ステップ2:レギュラー業務の切り出し(深化の可視化)

「イレギュラーが多いから無理」という思考停止を崩すには、業務を細分化し、どこまでがレギュラーで、どこからが本当のイレギュラーかを線引きする作業が必要です。ここが見える化されて初めて、AIに任せる領域(レギュラー)と人間が処理すべき領域(真のイレギュラー)が分離できます。これは探索の準備であり、同時に深化そのものでもあります。

ステップ3:小さな探索から始める

CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)も大規模投資もできない小さな葬儀社にとっての探索は、電子墓誌のような外部連携サービスの導入、SNS発信の開始といった、資本ではなく知見の交換で成立する範囲から始めるのが現実的です。

ステップ4:アライアンスによる両利きの代替

CVCが使えない代わりに使えるのが業界内アライアンスです。既存葬儀社(深化の蓄積:顧客基盤、施行ノウハウ、地域信頼)と、YEYのような立場(探索の蓄積:技術シーズ、DXノウハウ、他業界の知見)を組み合わせる。資本ではなく知見の交換で「両利きの経営」を代替するモデルです。


まとめ

大企業の理論をそのまま持ち込んでも、葬儀業界の大半を占める中小葬儀社には使えません。しかし、知の探索と知の深化という軸そのものは有効です。ただし、その前提として「自社の現状を正確に把握し、検証する」という最低限の土台が必要であり、これが崩れている会社が業界には少なくない、というのが現場からの実感です。パソコンがない、紙の報告書だけ、freee丸投げで検証なし ── これらは全て「検証する姿勢の欠如」という一つの根に繋がっています。AIリスキリングは、ツールの使い方を教えることではなく、この根本的な姿勢を立て直すことから始めるべきだと考えています。


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